[IC-705] 50Wリニアアンプ HL-50B導入(保証認定・変更申請、コントロールI/F作成)

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パワーアップ思案

転居前の大断捨離ではIC-7300Mと屋外ATU、ATUエレメントといったメイン構成一式を手放した。
手放したのは転居直前だったため、無線機変更(撤去)は転居後の住所変更(エリア外)と併せて申請。
所有している中の最大出力機(50W)が居なくなったので無線局免許状の「電波の型式、周波数及び空中線電力」欄の記載事項も変わるな…と思っていたら、従事者免許と固定/移動の別による一括表示になっていて、 おかげで今回の変更申請でも無線局免許状の変更再発行は無し。
(住所/無線機変更と旧コールサイン復活で立て続けに二回の再発行手続きは流石に手間だった…。)

当初は自宅固定でもQRP(IC-705、FT-818ND)で十分かな…と思っていたけれど、屋内設置MLAで全国や近隣国へ届き、屋外アンテナを設置したら海外(エリア的には全世界)にも届くようになって、少しだけ欲が出てきた。

屋外アンテナを設置して、頭の至近距離からの電磁波を浴びる恐れが無くなったので(室内設置MLAはエレメントが頭の真横僅か数十cmの位置に有った)、次の目標は出力アップ。

実際の交信で相手局とのレポート差が大きく(当然こちらが弱い)、相手からの信号は強めなのに、こちらからの返送をなかなか取って貰えずに再送を繰り返したり、挙げ句に中断してしまうことも少なくない。
移動局免許の上限(50W)までは上げたい。

50W出力機の新調が手っ取り早くて確実とはいえ…それなりに高価だし設置スペースも必要、それにPCとワイヤレス接続出来るIC-705のメリット(PCの間近に設置したMLAを使っていた時でさえPCへの回り込みやPCからのノイズ影響は無し)は絶大。
それにコンパクトだし、PEOVIの外骨格も大のお気に入りだし。
IC-705用純正リニアアンプか、IC-705同様にWLANでPCと接続出来る50W出力機が出てくれれば…。

となると、IC-705に50Wクラスのリニアアンプを追加するのが自分にとって最適解だけども…こちらは選択肢が非常に乏しい。
容易に入手出来て安価な中華製リニアアンプは、スプリアスの多さで保証認定の取得には外付けLPFの追加など結構な対策が必要という事例が多い。

一方、今も評価が高い国産リニアアンプ(東京ハイパワー HL-50B…3.5~50MHz/入力10W⇒出力50W)は既に廃番になって久しい上にメーカーが廃業してしまったため入手の難しさと今後の維持がネック。
稀にオークションサイトやフリマサイト、中古ショップサイトで見かけることがあるものの、外観程度並でも高値相場で直ぐに売れてしまう模様。(見かけるのは全て売れた後。)

そうした人気の一因が堅牢さ。
とあるユーザーのブログに『HL-50Bには負荷短絡/バンド誤切替/電源逆接に対する保護が有り、実際にアンテナ未接続/バンド誤切替/送受誤接続をやってしまったが全く問題無かった』…と記されていた。
もちろんミスをしないのが一番だけど、この安心感は非常に大きい。

リニアアンプ HL-50B入手

屋外アンテナ設置思案⇒計画⇒実施と並行して探していたところ、幸いにも程度の良いHL-50Bを入手することが出来た。
美品で動作確認済、但し付属品は一切無し。
付属品といっても必要なのは電源ケーブルくらいで、汎用品(車載型トランシーバー用T型カプラ付きケーブル 15A対応)が容易に入手可能。
IC-705用のコントロールケーブルなんてそもそも存在しないので自作前提。
(直結しただけの簡易的なコントロールケーブルを添付している出品も幾つか見かけたけれど…直結は不安。⇒後述)
申請や制御に際しての必要な情報(構成図、終段管、電圧、コントロール端子のピン配置と制御方法)は全てネット経由で入手出来ているので、説明書については今後の参考に有れば良いかなという感じ。

届いて早速チェック。
●外観:
 説明文や写真に違わず綺麗で、よく見かける底部/後部パネルの錆も無く、傷や凹み、変色も皆無。
 ちなみに内部も非常に綺麗だった。
●動作:
 下記の各構成でWSJT-Xの【チューン】での送信出力を測定し、全てのバンド(3.5~50MHz)で②が①の概ね5倍になっていることを確認。
 ①【IC-705⇒SWR/PWR計⇒ダミーロード】
 ②【IC-705⇒HL-50B⇒SWR/PWR計⇒ダミーロード】

チェック時の送信制御はキャリアコントロールで行ない、スタンバイコントロールについてはIC-705との接続ケーブル(スタンバイ コントロール インタフェース⇒後述)を作成後に確認した。

実は…最初、電源(DM-330MV)の前面端子(Max 5A)に繋いでいて「電源が入らない!」と焦ったけれど、後面端子(Max 32A)に繋ぎ直したところ無事起動。
本機は、10A以上を安定供給する電源が必要。

無線局免許状の変更申請

既に免許されている無線機にリニアアンプなどの附属装置を付加する場合には変更申請を行う必要がある。

HL-50B 保証申請【JARD】

そして、変更申請の際には自作・既製品問わず付加するリニアアンプが技術基準に適合している旨の保証も必要。
JARD(一般財団法人 日本アマチュア無線振興協会)電子申請による「基本保証」を行っていることを知り、早速依頼した。
依頼手順や注意点については上記リンク先に詳しく記載されているが、依頼する前に「総務省 電波利用 電子申請・届出システム Lite」(以下、電子申請Lite と略)で変更申請手続きを事前チェックまで進めてファイルを保存しておく。
この保存したファイル(ZIP形式)をそのまま保証申請用として送付する。

送信機系統図
IC-705にHL-50Bを接続した構成の送信機系統図

変更申請に添付する送信機系統図の作成では、IC-705の終段管と電圧はIC-705の取扱説明書【18-5 送信機系統図】で調べ、HL-50Bの終段管と電圧、概略構成はネット上で公開されている先人達の情報を参考にさせていただいた。
尚、HL-50B使用時は先日設置したATU&ATUエレメント固定、IC-705単独ではMLA等の使用を想定しているため、このようなアンテナ構成にした。

工事設計情報

上記の系統図ではIC-705の技適番号も記載しているが、実際の変更申請では技適機種としての適用から外れるため、工事設計情報には下記の通り各種項目を記載する必要が有る。
(この部分で幾つか不備を指摘された。)

  • 「適合表示無線設備の使用」項目⇒「適合表示無線設備を使用する。」のチェックを外す。
  • 「発射可能な電波の型式及び周波数の範囲」⇒「希望する周波数帯」と「電波の形式」を全て記載する。
  • 「変調方式」⇒希望する全ての「電波の形式」とそれぞれの「変調方式」ならびに「変調方式 備考」を記載する。
  • 「終段管」⇒IC-705とHL-50Bそれぞれの「名称」と「個数」を区別出来るように記載する。
  • 「電圧」⇒IC-705とHL-50Bそれぞれの終段管に掛かる「電圧」を記載する。
  • 「定格出力」⇒IC-705とHL-50Bそれぞれの「定格出力情報」を記載する。
  • 「添付書類」⇒送信機系統図を添付する。

記載に必要な情報は全て取扱説明書に記載されている。
(HL-50Bの情報はネット上で収集した。)

知識不足や勘違いによる幾つかの不備指摘が有り、その修正に際して不明な点が有ったので電話で問い合わせたところ、大変丁寧且つ分かり易く教えていただき、その日の内に修正版をメール添付にて提出。
(修正版の提出方法についても不備修正依頼メールに記載されている。)
その後、保証を得ることが出来て、「技術適合基準の保証書(変更)」(PDF)と、電子申請時に用いるファイル(申請書、添付ファイル…送信機系統図をZIP化)がメール添付で送られてきた。

変更申請【総務省 総合通信局】

電子申請Liteで変更申請を行い、送られてきたZIPファイルを読み込み、保証書を添付した。
(この手順も保証書送付メールに詳しく記されている。)
補正など無く審査は滞り無く進み、無事終了。
無線局免許状は「電波の形式、周波数及び空中線電力」が一括表記になったことにより記載上の変更が無く、改めての送付は無し。

そしてオールクリア!実に迅速

・先週月曜日午後:HL-50Bが届く。
・先週火曜日午前:HL-50Bの動作確認を完了。
・先週火曜日午後:変更申請(事前チェック完了時点で保留)と保証申請を行う。
・先週木曜日午後:保証申請の不備事項を修正して再申請する。
・先週金曜日午後:保証書を受領し変更申請を行う。
・先週土曜日午後:スタンバイ コントロール インタフェースの作成を完了。
・今週月曜日午後:変更審査が終了。 ☆今日♪☆

HL-50Bが手元に届いてから一週間で運用可能まで到達。
特に変更審査が実質一日も掛からなかったことには驚いた。
保証認定ともども速やかな対応に感謝している。

尚、変更申請完了後、変更概要や概ね一ヶ月程度実際に運用した状況(放送受信障害や電子機器への影響有無)などの調査報告書をJARDへ提出する。
(項目など詳細は保証書送付メールに記載されている。)

スタンバイ コントロール インタフェース作成

HL-50Bは無線機からの送信出力を検知して送信状態へ移行する「キャリア コントロール」機能が有り、検知から移行まで若干のラグが気になるが、無線機とは同軸ケーブルを繋ぐだけで使える。
(HL-50Bの動作確認はこちらで行なった。)
一方、無線機の送信切り替えに連動して送信状態へ移行する「スタンバイ コントロール」機能も有り、こちらはラグが殆ど無い代わりに、無線機と接続するためのインタフェース(ケーブル)が必要。
実運用では後者のスタンバイ コントロール機能を使いたいので、IC-705との接続に必要なインタフェースを作成した。

それぞれの仕様では…。
●IC-705:「SEND」コネクタ(Φ3.5mm 3極ミニジャック)の【T:SEND】と【S:GND】間は送信すると短絡状態になる。
●HL-50B:「ACC」コネクタ(DIN8pin-Uタイプ)の【8pin:REMOTE】と【6pin:GND】間を短絡すると送信状態になる。
一見すると、【SEND】⇒【REMOTE】/【GND】⇒【GND】をそれぞれ直結するだけで良さそうに思えてしまうが…実は大きな落とし穴が…。
IC-705の【SEND】コントロールに用いられているスイッチングデバイスはかなり脆弱らしく、破損による修理依頼が少なくないとか。
※取扱説明書の記載【19-2 [SEND/ALC]ジャック】も、後の版では注意喚起と併せて使用条件を厳しくする方向で修正されている。

取扱説明書の回路例ではリレー(逆起電力吸収用ダイオード付き)を使うよう記されているが、メカニカルリレーでも不安…ということでフォトリレーやフォトカプラーを用いた作成例を参考にさせていただいた。
⇒『【続報】IC-705 SEND端子故障 その後 フォトカプラーでアダプタ自作』(ほげんじょう)

スタンバイコントロール(PTT )インタフェース回路 ※KiCadで作図

フォトリレー(TLP241A)の電源はIC-705への給電からおすそ分け。
併せて、ALCフィードバック用の配線も組み入れた。※
(HL-50BのALC出力電圧は「概ね-2.5V前後」、IC-705のALC調整範囲は「-4.0~0V」。)
※参考にさせていただいたブログ記事を含めて、IC-705との組み合わせではALCを接続していないケースが殆ど。

左:C型/右:U型

ところで、HL-50BのACC端子に用いられている8pin-DINコネクタのピン配置は、よく見掛ける一般的なコネクタと僅かに異なっている。※
一般的な物は外側のピンが円周上に並んだタイプ(C型…上の写真で左側)だが、HL-50Bで用いられている物は外側のピンの内(上の写真では最下段の左右に並んだ)二本が円周上からやや外方向にズレているタイプ(U型…上の写真で右側)。
また、ピンの太さにも違いが見られる。
この2つのタイプには互換性が無く、後者のタイプ(U型)は市販品をなかなか見掛けないためヤフオクで調達した。
(多少割高になったけれど、やむを得ず…探した範囲では全てのオンラインショップで販売終了。)

※回路図中の8pin-DINコネクタのピン配置はHL-50Bを後ろから見た状態のもの。

コントロールI/F 外観
コントロールI/F 内部

●左
 ・DCプラグ(外径Φ5.5mm/内径Φ2.5mm)⇒IC-705の【DC】ジャック
 ・ミニプラグ(Φ3.5mm/3極)⇒IC-705の【SEND/ALC】ジャック
●中
 ・DCジャック(外径Φ5.5mm/内径Φ2.5mm)⇒外部電源からの【DC】プラグ
●右
 ・ピンプラグ(RCA)⇒HL-50Bの【ALC】ジャック
 ・DINプラグ(8pin/Uタイプ)⇒HL-50Bの【ACC】ジャック

回路自体は非常に簡単だけど、手持ちの小さなケース(タカチ SW-40B…外寸30×20×40mm)に詰め込んだため、各ケーブルが太くて特にDC系は結構硬めなこともあって引き回しが大変だった。
尚、DCケーブルに使用されている線材はAWG18で最大許容電流は13A…IC-705に外部給電して10Wで送信した際の電流は最大3A程度なので十分余裕が有る。
(基板の裏側で入出力をそれぞれ直結している。)

注意点(チューニング時の送信出力)

IC-705のチューニング機能(【FUNCTION】⇒【TUNER】長押し)では、送信出力設定(【RF POWER】)に関わらず最大出力(外部給電運用時:10W/バッテリー運用時:5W)で送信される。
つまり、リニアアンプの電源をONにした状態では最大50Wの出力でチューニングしようとするわけだが、AH-730のチューニング時入力は10W(5-15W)で15Wを超えて入力した場合はチューニング動作を行わない。(iCOMのサポートに問い合わせた際の回答より。)
リニアアンプの電源をOFFにしてスルー状態にすれば、上記の操作でチューニング出来る。

他に、WSJT-Xのチューニング機能を用いるという方法も有る。

WSJT-Xの設定

WSJT-Xのチューニング機能(【チューン】)では本来の送信時とは別に送信出力の設定が出来る。
【設定】⇒【オーディオ】の「バンドごとに出力設定」で「□チューン」にチェックし、各バンド毎に【チューン】操作した際の送信出力(概ね10W)を設定しておくと、チューニング時に一時的に送信出力を変更し、チューニングを解除すると本来の送信出力に自動復帰する。

さて

ささやかな、シャック全景

自作のコントロール インタフェースも問題無く使用出来ていて何より。
他の機器への影響確認ということで、極短時間だけど全てのバンド(FT8周波数)で最大出力送信(IC-705:10W/WSJT-Xのチューンで出力最大設定)してみた。
間近に設置しているPC関連、自室内はもちろん自宅内の家電品全てで挙動不審は見られず。
(電源がONになっている機器の異常動作・現象はもちろん、OFFの機器が勝手に起動するなども無し。)

前環境で初めて50W出力(実質は少し低い)で送信した時は、電源をOFFにしていた送風機が勝手に動き出した…なんてことがあった。
(リモコン操作待機のため主電源はONにしたままだったので、厳密には電源OFFでは無い。)
IC-7300M側にもCMFを装着し(ATU側には最初から装着していた)、無線環境(同軸ケーブル)や送風機のACケーブルにクランプコアを装着することで発生しなくなったが、その時は確か28MHz帯だったと思う。

50Wという出力だけ見れば以前の環境でもIC-7300Mを使っていたので、それほど大きな感慨は無いかな。
むしろ、IC-705というお気に入りのコンパクト機で50Wまで出せること自体に感動している(^^ゞ

アンテナ構成(ATUエレメント+屋外ATU)は以前と同じ…それぞれ物自体は一新し、ATUエレメントの長さが二倍以上になったが設置環境の点では以前の方が良かったと思う。
(前:給電点の周囲間近に物が全く無くエレメント全体が屋根の上に出ていた⇒今:給電点の周囲間近を構造物に囲まれ、エレメント自体も壁面に近く、屋根の上に出ているのは全体の2/3程度)。
いずれ大幅な見直しを予定。

さて、増強効果は如何ほどか。
悪くはなってはいないと思うけれど(アンテナ設置環境の差がどれだけ影響しているか?)、投資と手間に見合ったものかどうかは暫く運用してみて判断しよう。
まぁ、この構成になったというだけで既に満足しているんだけどね。
保証認定や変更申請など附属装置の追加について学べたことも実に大きな成果…これも大きな目的の一つ。